GPSのSA解除について
2000年5月2日13:00(日本時間)をもって、米大統領声明により、従来GPSに施されていたSA(Selective Availability; 選択利用性)が解除されました。このことについては新聞やテレビニュースでも取り上げられましたが、このページでは実測データも交えてレポートすることにします。
GPSとは
米空軍が運用する衛星航法システムのことで、Global Positioning System(全地球測位システム)の略です。人工衛星から送られてくる電波を受信することにより、利用者は自分のいる位置(緯度・経度と高度)を正確に知ることができます。「Global」の名のとおり、全世界でいつでも利用可能です。
GPSは元来は軍事システムとして構築されたものですが、現在は民間に開放されており、主な用途は、カーナビや船舶・航空機の航法、測量などです。ハンディタイプの安価な受信機もあり、登山者などが利用する例もあります。
SAとは
GPSを民間用途に開放するにあたり、その測位精度を意図的に落とす措置が加えられました。これがSA(Selective Availability; 選択利用性)と呼ばれる操作で、SAにより民間用GPS受信機の測位精度は100メートル程度に抑えられていました。従来、カーナビの精度が100メートル程度といわれていたのはこのためです。
SAは民間用受信機にのみ効力があり、米国の軍用受信機はSAによる影響を受けません。1990年3月より実施されており、湾岸戦争の際に一時的に解除された以外は、今回解除されるまでずっとSAがかけられていました。
なお、SAについては2006年までに解除すると従来より米国が宣言していた経緯があります。また、SAは意図的精度劣化措置などさまざまな呼ばれ方をすることがありますのでご注意ください。
SA解除前後での測位精度の変化
次の図は、今回のSA解除の前後における測位精度の変化を表しています。
左右どちらの図でも、固定点で5秒毎に位置の測定を行いました。受信機アンテナはグラフの原点に設置してありますので、誤差がまったくなければ測位結果は原点になるはずです。しかし、実際には測位誤差があるために測位結果は原点を中心に散らばっています。
SA解除前は、左の図のようにおよそ30メートル程度の範囲に測位結果が散らばりました(赤のプロット)。散らばりの程度は、誤差の95%が半径36.0メートルの円(緑の円)の内側に収まるくらいでした。
これに対して、SA解除後は、右の図のように誤差が大幅に小さくなりました。誤差の95%が収まる円の半径は、5.6メートルまで小さくなっています。
なお、GPSの誤差がおよそ100メートル程度といわれていたのに比べて下の図はかなり良い精度に見えますが、これは、静止点で測定していることや、使用した受信機の内部処理で精度向上が図られていること、などによるものです。利用する受信機によって測位精度は変わってきますので、この図はどの程度精度が向上するのかを示す参考情報とお考えください。
SAが解除される様子
次の図は、SAが解除される様子を時間的に見てみたものです。

図の横軸は時刻、縦軸は測位誤差の大きさを表しています。上から順番に、東西方向、南北方向、高度方向の測位誤差を別々のグラフで表示してあります。
SA解除前には、東西方向と南北方向には20メートル程度、高度方向には100メートルに及ぶ誤差が生じていました。これが、日本時間で13:05頃を境にして小さな値に落ち着いている様子がわかります。SAが解除されたことにより、誤差が小さくなったためです。
SAの解除は当初の発表では5月2日の13:00を予定していましたが、これより若干遅れて13:05頃に実施されたことになります。これは世界標準時GMTで04:05、米東部標準時EDT(夏時間)で00:05です。大統領声明は、「5月1日の深夜24:00に解除する」とされていました。
カーナビの精度は向上する?
SA解除によりGPSの測位精度が向上していますから、GPSを利用するカーナビ装置の精度も良くなることになります。
ただし、現在のカーナビはGPSの精度が100メートルの時代に開発されたものばかりですから、この精度を補うための各種技術が導入されています。例えば、マップマッチングや、ジャイロ等の自律航法装置がこれにあたります。昔は、自動車が隣の道路や海の上を走っているかのように表示されることが多かったわけですが、現在はこのようなことは少なくなっています。つまり、GPSは100メートルの精度でも、他の装置により補っているわけです。
こうした事情があるため、GPSの測位精度が良くなったからといって、運転者の目に見えるような変化はないかもしれません。しかし、GPSの精度が良くなれば、いままでGPSを補っていた装置の性能を落とすことができますから、カーナビ装置としての価格を下げることができる可能性はあります。
一方、GPSによる車両位置管理システムなどでは、従来に比べて十分な測位精度が得られることになります。これにより、近くにある2つの配送先を区別することができるようになるといったメリットがあります。
また、ハイキングや登山にハンディGPSを利用している方にもSA解除は朗報です。山頂や山小屋の位置がよりはっきりとわかりますし、高度も正確に知ることができるようになります。パソコンにGPSを接続して利用している方も、同様に測位精度が向上します。
さらに詳しく知りたい方へ
参考データ提供
本ページのグラフ「SA解除前後での測位精度の変化」の作成に使用したデータを提供します。注意事項をお読みのうえで、ご利用ください。
データ取得条件
アンテナ設置場所 | 電子航法研究所 本庁舎屋上(東経139゚33'41.0227"、北緯35゚40'46.2953") |
使用受信機 | NovAtel社 RT-20 |
データ取得期間 | 2000/5/2 11:55~13:00 (SA解除前) 2000/5/2 13:26~16:30 (SA解除後) |
提供データ
- SA解除前
- SA_ON.blh (BLH 34KB)
- SA解除後
- SA_OFF.blh (BLH 95KB)
データ形式
- "<時刻>,<緯度>,<経度>,<高度> \n" の形式で、5秒毎のデータが並べられています。
- 時刻の単位は秒で、2000/5/2 00:00:00からの経過時間を表します。
- 緯度・経度の単位は度、高度の単位はメートルです。
データ提供にあたっての注意事項
- 本データの著作権は独立行政法人電子航法研究所にあります。
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電子航法研究所 航法システム(NAV)領域