リモートタワーの標準化文書発行に大きく貢献:
EUROCAE(欧州民間航空電子機関)会議のエディターとして活動

概要

EUROCAE会議での活動

空港にある管制塔(タワー)のデジタルツインとして世界的に研究開発が進んでいるリモートタワー、その将来版であるデジタルタワーの技術標準化が、欧州の標準作成機関であるEUROCAEのワーキングループ会議(WG-100)で進められています。EASA(欧州航空安全機関)やCANSO(民間航空航空交通管制業務機構)ではこの運用を議論しているのに対し、EUROCAEではシステムの技術基準策定に取り組んでいます。これは、ICAOの国際標準策定に先行した活動でもあり、策定を主導するパネル会議(ATM OPS)に提出される原案でもあります。

コアチーム活動

本ワーキンググループの登録メンバーは100名を超え、全体会議にも常に30~40名ほどが参加します。このため、技術要求文書であるMASPS原案の策定は、開発ノウハウを持つ専門家、導入評価経験がある各国の航空管制機関(ANSP)からなるコアチームが担っています。当研究所研究員は、このコアチームのメンバーであり、技術情報を提供するとともに、エディターとしても文書案を作成しています。特に2020年度には頻繁にオンラインで会議が開催され(2週間に1回)、文書作成に多くの時間を費やしました。

技術標準文書の発行

コアチームの精力的な活動により、2016年にリモートタワーの光学カメラシステムについての技術要件(ED-240)、2018年には 光学カメラセンサでの航空機追尾に関する追加要件(ED-240A)を発行しています。最近では、2021年10月に追加要件の改定1版(ED-240A Change 1)を発行しました。今改訂では、ED-240Aにおいて難解な箇所を分かりやすくし、新しい定義や技術要件を追加・変更することで文書構成や内容を改善しました。 また、将来の非光学センサ技術の活用を意識して、ユースケース、オプション、勧告を追加しています。次のステップとして、非光学センサに関連した技術要件であるED-240Bの発行を目指しています。

図1リモートデジタルタワーの概念

図1リモートデジタルタワーの概念

図2リモートタワー実験施設(ENRI)

図2リモートタワー実験施設(ENRI)

用語

リモートタワー(RT)

管制塔で行われていた業務を空港から離れた管制センターでいままで同様に行えるように考え出された概念。光学カメラセンサやその他監視センサ等により滑走路や周辺空域の情報を遠隔地に伝送し、カメラから得られた管制塔の窓から見えるのと同様な視界に加え、運用に必要な情報を合わせて統合的にディスプレイに再現する技術。1つのリモート施設内に複数の管制塔を擬似的に再現して管制することも可能となる。

デジタルタワー(DT)

カメラや監視センサの情報をより積極的に利用し、AIやAR,VRなどの情報技術を駆使した業務支援技術などが組み込まれたリモートタワーの技術を拡張した概念。画像認識技術で航空機を検知し追尾、AR技術によりレーダ画面で使われるタグ(航空機の便名など)を表示するなどの追加機能により、目視による航空管制を支援し安全性を向上する。光学カメラ以外の電波を使用した監視センサによる航空機の位置情報を活用し、効率的でありながらより安全性の高いシステムの構築を目指している。将来、現在の管制塔を置き換える構想もある。

MASPS(航空システム最低性能基準)

システムとして最低限運用に必要な性能を要件として記述した技術基準。リモートタワーでは、これまでのところカメラ映像の遅延許容時間、PTZカメラの反応時間や映像による物体の視認性に関する仕様が記述されている。

文献情報

文献情報
国際会義 EUROCAE WG-100 Remote & Virtual Tower (RVT)
(欧州民間航空電子機関リモート&バーチャルタワー)
標準文書 MASPS ED-240, ED-240A, ED-240A CHANGE 1
ENRI参加者 Satoru Inoue, Mark Brown
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