 満開の桜 |
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朝起きて外を見ました。明るい日差しを浴びた、よく晴れた日本でした。満開の桜が咲いています。 家を出て職場に向かいました。正門でなつかしい顔の守衛さんに会いました。私の顔を覚えていてくれたでしょうか。守衛さんは敬礼しながら言いました「本当に、お疲れ様でした」。私は頭を下げました。
自分の部屋に向かいました。私が南極へ行っている間に、職場のレイアウト変更がありました。自分の部屋が分かりません。心配になりました。職場の人に会いました「お帰りなさい」。よかった、ちゃんと私の席はありました。
こうして私は再び日本での生活を始めました。 越冬症候群とでも言うのでしょうか、奇妙な行動に周りの人たちがおかしな顔をしています。まるで自分が異星人のようです。 財布を持たずに出かけてしまいます。雨が降ることも、傘を使うことも忘れています。電車に乗ってもカードの使い方が分かりません。周りの人はコートなのに半そでで出かけようとしてしまいます。迷子になったと思われ、心配した子供たちが探してくれました。職場で飛び交う言葉が分かりません。私は普通のスピードで話しているつもりなのに、聞いている人が私の言葉を待ちきれず先に話を続けてしまいます。 一年四ヶ月という時間の長さ以上に、いままで全神経をまったく違うことに集中していたため、南極へ行く前の生活の記憶があきれるほど薄れてしまいました。 越冬中の時間を取り戻すのは簡単ではないようです。
いまでも、南極を歩いていた感覚がありありと残っています。硬い雪、たたきつける痛い風、冷たく乾いた空気。気が付くと、自分の意識がこの場所から離れて、南極を漂っているような錯覚にとらわれます。またあの場所へ戻る日はおとずれるのでしょうか。
一年四ヶ月の間、この南極観測レポートを続けることができました。長い間お読みいただきありがとうございました。すべての経験をここに書くことはとてもできません。伝えたくても、書くことを避けたこともありました。しかし私が見たこと、触れたこと、考えたことを、少しでも皆さんに感じ取っていただければうれしいです。 機会がありましたら、私の南極での経験をぜひ皆さんに直接お話しさせていただきたいと思います。
ありがとうございました さようなら
第48次南極地域観測隊 独立行政法人
電子航法研究所 新井 直樹 |