用語集

目次

A

ABAS (Aircraft-Based Augmentation System)
機上型衛星航法補強システム。航空機における衛星航法の自律補強システム。受信機単体で衛星航法の信頼性を高める方式とGPS受信機とIRU (Inertial Reference Unit)または気圧高度計を使い衛星航法の信頼性を高める方式がある。一般的には,航空機に搭載した受信機単体で衛星航法の信頼性を高めるRAIM (Receiver Autonomous Integrity Monitoring)による方式が使われる。RAIMでは,5個以上のGPS衛星から得たデータから,GPS衛星の異常を検出し使用を停止する方式と,6個以上のGPS衛星から得たデータからGPS衛星の異常を検出し,その衛星だけを排除する方式がある。多くの旅客機には5個以上のGPS衛星から得たデータから,GPS衛星の異常を検出する方式の受信機が使われている。
ACAS (Airborne Collision Avoidance System)
航空機衝突防止装置。
航空機同士が空中衝突する危険を抑える目的で開発されたコンピュータ制御のアビオニクス装置である。地上の航空管制システムには依存せずに航空機の周囲を監視し,空中衝突 の恐れがある他の航空機の存在を操縦士に警告する。57,00kg以上または客席数19以上の全ての航空機に国際民間航空機関 (ICAO:International Civil Aviation Organization)が装備を義務付けている。
ADS-B (Automatic Dependent Surveillance - Broadcast)
放送型自動位置情報伝送・監視機能
飛行中や地上走行中の航空機等の移動体の位置を監視する手段のひとつ。各航空機がGNSS等の測位システムを用いて取得した位置情報を地上又は他の航空機に向けて放送する方式。信号のキャリアには1,090MHzの拡張スキッタが主に用いられる。
APV (Approach Procedure with Vertical Guidance)
垂直誘導付進入方式。非精精密進入方式と精密進入方式の中間に位置する,水平と垂直ガイダンスを用いるが,精密進入要件を満足しない方式。気圧高度計に基づく垂直ガイダンスを行うAPV/Barometric Vertical Navigation (BARAO/VNAV) とSBASによる垂直ガイダンスを行うAPV IとAPV IIがある。水平警報限界(APV IおよびAPV II)は40mで垂直警報限界はそれぞれ50m(APV I)と20m(APV II)である。APV IはFAAではLPV(Localizer Performance with Vertical Guidance)と呼ばれる。DA(Decision Altitude)は250ftまで。LPV 200はWAAS(Wide Area Augmentation System)の性能に基づき,LPVにおいて警報限界35mとし,DA200ftまでとした進入方式。
ASA (Airborne Surveillance Application)
機上監視応用。
他の航空機との安全間隔維持のために飛行乗務員を支援する航空機搭載監視を基本とした航空機システム。
過去には, ASAS(Airborne Separation Assistance System またはAirborne Separation Assurances System)と呼称したが,最新のICAO文書等ではASAと統一してあつかっている。
A-SMGCS (Advanced Surface Movement Guidance and Control System)
先進型地上走行誘導管制システム。
空港面内の航空機及び車両が安全に走行できるように,その位置を正確に把握し,経路設定,誘導,管制を行うシステム。
近年の幹線空港等の大規模化に伴う空港面レイアウトの複雑化および空港需要増大に伴う高密度運航に対応するため,また,夜間や霧などのために視程が低い状況下でも航空機等の安全で円滑な地上走行を確保すると共に管制官の負荷を軽減する次世代システムであり,監視,経路設定,誘導,管制の4つの基本機能で構成される。

B

C

CAT Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ (Category 1,2,3)
ICAOの定める精密進入の運用区分。
航空機の性能,パイロットの資格,ILS施設の性能,航空灯火の種別などによって,航空機がどの段階まで進入可能かを決めた運用区分。
CAT Ⅰ
決心高度(DA: Decision Altitude)が滑走路末端からの高さ60m以上で,RVR(滑走路視距離,Runway Visual Range)が550m以上の場合にILSまたはGLS等を利用して進入および着陸を行う。LPV 200は SBAS CAT I とされている
CAT Ⅱ
決心高(DH:滑走路末端からの高さ,Decision Height)が30m以上で,RVRが300m以上の場合に,ILSまたはGLS等を利用して進入および着陸を行う。
CAT Ⅲ
DHがない,または30m未満であって,RVRが50m以上の場合に,主に自動操縦によりILSまたはGLS等を用いて進入および着陸を行う。フェールパッシブまたはフェールオペレーショナル着陸装置の装備により,警戒高(AH:Alert Height)が設定される。
CDM (Collaborative Decision Making)
協調的意思決定。
航空交通管理(ATM:Air Traffic Management)において,管制機関,気象機関,航空会社の運航管理者,パイロットといった航空交通の関係者の持っている情報を共有することにより,各関係者がより適切な判断を下せるようにすることでATMの効果を向上する仕組み。
具体的には,天候などによる空域容量,空港容量の変化,機材繰りによる出発遅延といった現状に関する情報,各関係者の予定や意図,状況予測の情報の共有によって各関係者の状況認識を向上し,予定の修正などの判断に資することにより,交通量/交通流の予測精度やATMの利便性を向上するために用いられる。
情報共有の手段は,ATMセンターでのCDM会議のほか,各関係者間の通信として電話,専用ネットワーク回線など様々なものを用いうるが,将来の情報共有環境であるSWIMの活用も検討されている。
空港CDM
CDMの考え方を空港面の交通流に適用し,空港面の混雑の緩和を図るとともに,空港面の交通状況に応じた,より確かな離陸時刻の予測を,航空交通流管理(ATFM:Air Traffic Flow Management)に提供することによってATFMの精度を向上する仕組みを空港CDMという。
CDO (Continuous Descent Operation)
継続降下運航。
到着機が水平飛行を行わず最小のエンジンスラストで最終進入地点(FAF; Final Approach Fix)まで連続降下する運航方式で,消費燃焼削減効果とそれに伴う二酸化炭素排出削減効果,騒音の低減効果,管制官―パイロット間通信負荷の削減効果などがある。CDA(連続降下到着,連続降下アプローチ),OPD(最適プロファイル降下),TA(Tailored Arrival),3D/4Dパス到着管理などとも呼ばれる。特に降下開始点(TOD:Top Of Descent)から連続的に降下するものが最適のCDOである。
わが国でもいくつかの空港においてCDOを実施しているが,軌道の不確実性が高く周辺空域の管制処理容量を低下させるため,現在は交通量の少ない時間帯に限って運用されている。CDOの運用拡大のためには空域設計や経路条件の工夫だけでなく,予測精度の向上や軌道管理の確実性が必要であり,FMSの機能拡張や軌道管理の高度化が不可欠である。
CFDT (Calculated Fix Departure Time)
CFDT(Calculated Fix Departure Time)は,1,2時間先の空域混雑状況を予測し,対象となる飛行中の航空機へCFDT FIXとよばれる特定地点の通過時刻を指定することによって,空域・空港の混雑回避を行う航空交通流管理の一手法。主に交通量の観点から制御を行う。
CFDTは飛行中の通過時刻を制御するものであり,軌道ベース運用(TBO)につながる初期的な時間管理運用となる。
CNS (Communication, Navigation and Surveillance)
通信,航法,監視。現在の航空運航の実現を可能とする空地通信システム,衛星航法システムと地上無線施設を用いる航法システム,及び航空機監視システムの総称。

D

DAPs (Downlink Aircraft Parameters)
航空機動態情報のダウンリンク技術。
SSR(Secondary Surveillance Radar,二次監視レーダ)モードSを用いて,選択高度,対地速度,対気速度などの航空機の動態情報をダウンリンクする技術。地上にて,リアルタイム性の高い航空機の情報を利用することが可能になり,管制官の状況認識の向上やシステムの位置予測精度の向上が期待できる。
DGPS (Differential GPS)
ディファレンシャルGPS。3次元の位置(緯度,経度,高さ)が明確で固定されたGPS受信局(基準局)のGPS受信信号を使い,受信されたGPS衛星からの距離情報を補正することで,精度の高い位置を求める方式をいう。航空におけるSBAS,GBASにもDGPSの原理が使用されている。
DME (Distance Measuring Equipment)
距離測定装置。航空機が960MHz~1,215MHzの周波数を使い,地上DME局に質問し,地上DME局がその応答を決まった時間 (50μS)と63 MHz異なる周波数で返すことによって,航空機がその応答を受信し,電波の到達時間を計測することにより地上DME局までの距離を得るシステム。
DMEはVORに併設されて,航空機に位置情報(距離-方位情報)を提供する短距離援助方式として使用されることが多い。また,ローカライザまたはグライドパスと併設し,ILSにおける着陸点までの距離情報を連続して提供する精密進入援助施設(Terminal DME: T-DME)としても使用される。
また,近年では複数のDMEを使い航空機がFMSを使ったRNAVにおける位置センサとしても使われている。

E

EFB (Electronic Flight Bag)
電子フライトバッグ。
従来は紙媒体による資料(例えば,飛行規程や航空図)や航空運送事業者の運航管理業務により航空機乗組員に提供されてきたデータ(例えば,飛行性能計算)を操縦室において電子的に表示する機器
EUROCAE (European Organisation for Civil Aviation Equipment)
欧州民間航空用装置製造業者機構。
航空に関する要求事項・技術的コンセプトの調査検討に取り組み,提言を行うと共に技術基準の設定を行うことを目的とした欧州の民間非営利団体。
EUROCONTROL (European Organisation for the Safety of Air Navigation)
日本語では欧州航空(航法)安全機関,欧州管制機関,ユーロコントロールなどと呼ばれる。
欧州の空域についての管制,及びその研究等を行っている機関である。

F

FAA (Federal Aviation Administration)
米連邦航空局。
民間航空の管制や保安を所掌する米国の行政機関。日本の国土交通省航空局にあたる。
FMS (Flight Management System)
飛行管理装置。計器誘導を行うための機上装置。RNAVにおいて機上側の要となる。旧来の自動操縦装置は主に航空機の姿勢を安定させ,経路上にある近くのVOR/DMEへ針路を向ける程度の機能であったが,コンピュータの性能の向上により,FMSでは経路全体の情報をあらかじめ記憶させておくことができ,経路と自機の位置関係を正確に求めることができるため,無線標識を結ぶ折れ線状になる従来型の経路設定よりも自由度の大きい効率的な経路管理が可能となり,また,離陸から着陸に至るまでの航行を自動化することが可能となった。
ボーイング767,エアバス310以降に開発された航空機には標準装備されている。

G

GBAS (Ground-Based Augmentation System)
地上型衛星航法補強システム。GNSSによる航空機に対する精密進入を可能とすることを目的として,GNSS単独では不足する航法精度,安全性基準を達成するため補強情報を放送する航法システム。
DGPSの原理に基づいており,空港に3~4局の基準局を設置し,VHF(108~118MHz)の1波の時分割デジタル信号により補正情報,インテグリティ情報,進入経路情報等を航空機に放送する地上局と,その放送信号と機上で受信するGNSS信号を元に,選択した進入コースに誘導するGBAS受信機からなる。1つのシステムで複数の侵入経路に対応し48の進入コースを放送することが可能。ICAO国際標準は,CAT I, II,IIIの標準化されており,現在CAT Iまでが実用化されている。
GEONET (GNSS Earth Observation Network System)
国土地理院GNSS連続観測システム。
全国約1,200ヶ所に設置された電子基準点とGEONET中央局(茨城県つくば市)からなる,高密度で高精度な測量網の構築と広域の地殻変動の監視を目的とした連続観測システムである。
GNSS (Global Navigation Satellite System)
全地球的航法衛星システム。4基以上の測位衛星から送られる衛星の時刻信号や軌道情報などから,受信機が受信信号を利用し,受信局の位置(緯度,経度,高さ)と時刻を求めるシステム。
米国が運用中のGPS (Global Positioning System),ロシアが運用中のGLONASS (Global Orbiting Navigation Satellite System),中国が運用中のBDS(BeiDou Navigation Satellite System),欧州連合が整備中のGalileoなどがある。
ICAOでは,測位衛星群とその機能を補完する補強システムを組み合わせた総体としての航法用測位システムがGNSSである。航空機に使うためには補強システムとしては,以下の3種類がある。
SBAS
静止衛星型衛星航法補強システム
GBAS
地上型衛星航法補強システム
ABAS
航空機に搭載した受信機単体で航法

H

I

ICAO (International Civil Aviation Organization)
国際民間航空機関。
民間航空機の運用方式などについて国際法的な取り決めおよび技術的標準の策定と普及を目的とした国連の専門機関。1947年創立。2022年7月1日現在,193ヶ国が加盟している。
航空機のライセンス管理,空港の標識,安全のための性能仕様,管制方式,事故調査様式などについての国際法的な取り決めおよび技術的標準を策定し,民間航空に関する基本的な国際法である「国際民間航空条約」として明文化している。
加盟国における民間航空に関する法令は国際民間航空条約に準拠しており,日本の航空法も同様である。
当研究所は,技術に関する「標準および勧告方式」(Standard and Recommended Procedures:SARPs)の策定に携わっているほか,航空行政に関する国際会議に日本代表団のテクニカルアドバイザとして参加している。
ILS (Instrument Landing System)
計器着陸装置。
滑走路への進入経路を示す指向性電波を地上から送信し,航空機側に経路からの水平,垂直偏位を表示するシステム。航空機はこの変異をゼロにするように手動または自動操縦することで経路に追従できる。
正しい進入経路からの水平方向の偏位を提示するローカライザ,垂直方向の偏位を提示するグライドスロープ(グライドパス),滑走路までの距離を提示するDMEから成る。特に,悪天候の民間航空機の進入着陸にも活用されており,施設性能に応じてCAT ⅠからⅢの区分がある。

J

K

L

LPV 200 (Localizer Performance with Vertical Guidance 200)
LPV 200はWAASの性能に基づき,LPVにおいて垂直警報限界35mとし,DA 200ftまでとしたアプローチ方式。FAAのWAASを用いるLPV(Localizer Performance with Vertical Guidance)はICAOではAPV I と呼ばれる。LPVのDAは250ftまで。

M

MUレーダ (Middle and Upper Atmosphere Radar)
京都大学生存圏研究所 信楽MU観測所の主要観測施設。中層・超高層および下層大気観測用VHF帯大型レーダであり,高度1~25kmの対流圏・下部成層圏,高度60~100kmの中間圏,下部熱圏及び高度100~500kmの電離圏領域の観測が行われている。

N

O

P

PBN (Performance Based Navigation)
航法に使用するセンサの種別によらず,航空機に求められる航法精度により飛行経路の規格及び航空機,乗務員に関する要件が仕様として定められた広域航法。

Q

R

RNAV (Area Navigation)
広域航法。
地上無線施設(VOR/DME等)から得られる位置情報,GNSSや機上の慣性航法装置から得られる位置情報をもとに,機上に搭載したFMSを活用して,自機の位置や飛行方向を確認しながら飛行する航法。
従来,陸上の航空路は地上の航空保安無線施設(VOR/DME等)間を結んで設定されていたが,高機能な機上装置であるFMSの導入により,RNAVでは地上の航空保安無線施設の地理的な位置に拘束されることなく直行的,可変的な経路の設定が可能となり,空域を有効に活用できる。現在では,標準計器出発方式(SID),標準計器到着方式(STAR)に用いられている。
RNP適合機 (Require Navigation Performance)
飛行中の95%において,指定位置の前後左右4NM以内の誤差に収まる航法精度を持つ航空機のことをRNP4適合機といい,同様に航法精度10NM以内のものはRNP10適合機という。
RVSM (Reduced Vertical Separation Minima)
短縮垂直間隔基準。
29,000ft以上の巡航高度においても1,000ftの垂直間隔を適用する方式。日本の国内の空域においても平成2005年9月30日に導入され,一部を除き日本の管轄する空域すべてでRVSMが適用されることとなった。

S

SBAS (Satellite-Based Augmentation System)
静止衛星型衛星航法補強システム。GPSを航空航法用途に利用するにあたり,不足する精度および信頼性を補う補強システム。
静止衛星を用いて,衛星時計誤差情報,衛星軌道誤差情報,電離圏遅延量情報などの補強信号を放送し,SBAS受信機が放送された情報を元に衛星の利用可の判断並びに測位情報の向上を行うシステムで,ICAO(国際民間航空機関)により国際標準規格として制定されている。国土交通省のMTSAT(運輸多目的衛星)を用いた日本のSBASをMSASという。他に米国のWAAS,欧州のEGNOS,インドのGAGANがある。
日本固有の問題として,陸地が細長い形状であるため基準局設置による効果や電離圏の影響が欧米より大きいため,独自の解決策が求められる。
SSR (Secondary Surveillance Radar)
二次監視レーダ。
一次監視レーダ(Primary Surveillance Radar: PSR)が照射電磁波の反射波により航空機の位置を監視するのに対し,SSRは航空機に質問信号を送り,機上のトランスポンダから応答信号として計器情報(高度など)を地上へ送信させることで監視を行う。
覆域の航空機へ一括して質問信号を送るモードAおよびモードCはこれまでの航空管制用レーダの主流であったが,応答信号の内容が航空機識別信号と高度情報のみであり,運航量の増加に伴って応答信号の重畳が激しくなったため性能の限界に至りつつある。
モードS (Selective)は,質問信号の送信の際に航空機識別信号を用いることで個々の航空機と選択的に交信を行うことが可能である。また,情報容量の多いモードSロング応答信号を用いたデータリンク機能により,高度だけでなく位置,針路,速度,ウェイポイントなど多様な情報を得ることが可能で,航空機の増加への対応の必要性から世界的に徐々に普及している。
一次監視レーダとは異なり機上装置が大きな役割を果たす監視手段であるため,航空機にはSSRの運用モードに対応した信頼性の高い機上装置を搭載することが必要となる。
地上から機上への送信には1030MHz,機上から地上への送信には1090MHzの周波数帯を用いる。
SWIM (System-Wide Information Management)
統合情報管理。
次世代航空管制システムに関する各施策を実現するために情報とサービスを共有する汎用で高機能な仕組みと,この仕組みを構築するためのステークホルダー間の共通認識に基づく計画。従来のRDP(Radar Data Processing)システム,管制通信システム,エアライン運航システム等々をネットワーク連携し,データの一貫性を持たすことから異なるシステム間の通信を可能とすることで,CDM(Collaborative Decision Making)に発展させるためのテクノロジー。すなわち,SWIMの技術基盤はシステム間通信であり,SWIMのノードにシステム内通信である管制部,空港,空地通信等が連結される構造となる。

T

U

V

VDL (VHF Digital Link)
次世代の空地間デジタル通信方式。
空地間データ通信としては従来ACARS (Aircraft Communications Addressing and Reporting System)が用いられているが,低速(2.4 kbps)である,誤り訂正機能がない,高伝送負荷時に伝送遅延が大きいなどの欠点があり,航空交通管制用として十分な性能を持っていない。
VDLはACARSの問題点を解決するためにICAOで標準化された空地間データ通信方式である。VDLでは,誤り訂正機能をもつため信頼性が高く,また通信速度も大幅に向上している。
現在,用途に応じて以下の各モードの実用化が提案され,実用化が検討されている。
モード2
31.5kbpsの転送速度があり,管制用データの通信に用いる。プロトコルがATN(航空用通信ネットワーク)に対応している。ただし,CSMA(搬送波感知多元接続。無線LANと同じ)方式であるため,通信対象の航空機が増加するに従って通信に待ち時間が発生する。
モード3
TDMA(時分割多元接続。一部の携帯電話と同じ)方式によってひとつの回線で4つのチャンネルを並列に用いることができ,合計で31.5kbpsの通信速度である。また,音声をデジタル信号化することにより,データと音声を一緒に送ることも可能である。また,多チャンネル性を活かし,3チャンネルのデータと1チャンネルの音声,といった使い分けや,2機の航空機で2チャンネルずつ用いることで同一の回線を2機で共有する,などの運用も可能である。
モード4
19.2kbpsの転送速度があり,欧州ではADS-B用の監視データの送受信に用いることが検討されている。
VFR (Visual Flight Rules)
有視界飛行方式
パイロットの目視に頼り,パイロット自身の判断によって飛行を行なう方式。
VOR (VHF Omni-directional Range)
超短波全方向式無線標識。
超短波を用いて有効通達距離内の全ての航空機に対し,VOR施設からの磁北に対する方位を連続的に指示することができ,航空路の要所にVOR 施設を設置することにより,航空機は正確に航空路を飛行することができる。また,VHF 帯を利用しているため雷等の影響が少なく,飛行コースを正確に指示することができる。通常,DME を併設し,VOR/DME(方位・距離情報提供施設)として使用される。
VOR/DME (VHF Omni-directional Radiorange / Distance Measuring Equipment)
VOR(超短波全方向式無線標識)とDME(距離測定装置)を組み合わせた無線標識施設。
VRS (Virtual Reference Station)
仮想基準点。
複数の電子基準点の観測データから測定地点のすぐそばに,あたかも基準点があるかのような状態をつくり出す技術

W

WAIC (Wireless Avionics Intra-Communications)
航空機内データ通信
4.2 GHzから4.4 GHzまでの周波数帯を用い航空機内の内部通信の無線化を行う技術。機体の各種センサ信号等の航空機の運航に関わる通信を対象としており,乗客サービスに利用されるものではない。これまで有線で接続されていた通信の一部を無線化することで,機体の軽量化を図ることが可能となり,燃費向上やCO2排出削減が期待されている。一方で,同一周波数帯ではこれまで航空機電波高度計が運用されていることから,自機や他機の電波高度計に影響を与えずにWAICデバイスを利用することができる技術開発・共用検討が重要である。

X

Y

Z

アベイラビリティ (Availability)
有用性。また,有効性,利用率,稼働率ともいう。通信,航法または監視システムなどが正常に利用できる時間の割合。
通信,航法及ぶ監視システムである航空保安システムでは,故障,異常や運用環境などでシステムの利用ができない時間が生じると,他のシステムに切り替えたり航空機の運航自体を取りやめたりといった対応が必要となるために,システム運用面における重要な指標である。特に,衛星航法システムにおいては,使用不可能になった場合,広い空域で使用できなくなる場合が多いために,代替えの航空路や着陸する空港にも影響が出るために,安全性にも影響する。ICAOの標準では,衛星航法によるCAT Iの着陸に対して,99%~99.999%のアベイラビリティが要求されている。
誤り訂正符号 (Error Correction Code)
デジタルデータにおいて誤り(エラー)が発生した場合に,それを検出し訂正するために使用される符号のこと。例えばリード・ソロモン符号は地上デジタル放送やQRコード(2次元バーコード)等で利用されている。
インテグリティ (Integrity)
完全性。システムに問題が生じたことが検知され,定められた時間内に利用者に警報が発せられる確率。
例えば測位システムにおいて,システムの故障などにより異常な測位信号が出た場合,そのシステムによる測位情報に疑いを持たずそのまま用いることは危険を招く。よって,安全を確保するためには,測位システムの異常を検知し,ある時間内に警報(アラート)を発して利用を中止させることが必須となる。システムの安全性の指標の一つである。
ICAOの標準では,CAT Iの着陸のためには6秒以内着陸1回あたり,ILSなどの地上システムには99.99998%以上が要求されている。
GPSの場合,測位衛星が故障通知信号を発信するのは異常発生から数分から数時間かかるために,航空機で衛星航法を使用することができなかった。ABAS,GBAS,SBAS等の補強システムの導入によってGNSSへの監視を行うことがリアルタイムに行うことが可能となったために航空航法への利用が可能となった。
ウルトラワイドバンド (Ultra-Wide Band)
超広帯域無線。UWBと略す。
デジタル家電等,一般用途での使用が検討されている無線データ通信の方式。数百Mbpsのデータ転送速度を実現するために3GHz程度から10GHz程度にわたる広い帯域を用いる。そのため,GHz帯のさまざまな通信機器との干渉が懸念されており,検証の必要性が訴えられている。短距離通信を目的としているため信号の強度は小さくすることが予定されているが,GPSなど信号強度の弱い衛星通信に深刻な影響を与えるおそれがある。特に航空機内で使用された場合には,機上のGPS信号受信機器のすぐ近くでの動作となるため,問題はさらに深刻である。
現在は規格の策定段階にあり,干渉の問題により帯域自体の見直しも検討されている。
エフェメリス (Ephemeris)
GNSSにおける,各衛星毎の正確な軌道情報データ。このデータを基に,信号を送信した時刻における衛星の正確な位置を計算することが出来る。

拡張スキッタ (Extended Squitter)
SSRモードSの応答信号と同形式の信号を多目的に活用するためのデジタル信号の規格。1090ESとも略す。モードSトランスポンダ等から送信される。
1,090MHzの周波数帯を用い,8マイクロ秒のプリアンブルと,それに続く112マイクロ秒,112ビットのデータブロックから成る。信号内の通信速度は1Mbpsである。
レーダによらない監視機能であるADS-Bやマルチラテレーション,航空機間で間隔の監視を行うACAS(航空機衝突防止装置),などに活用される。
高カテゴリ
計器着陸装置の性能が高いこと。
航空機動態情報 (Aircraft Parameters)
航行中の航空機におけるリアルタイムな状態を示す情報。選択高度,トラック角,対地速度,対気速度等がある。
コンティニュイティ (Continuity)
連続性。測位や通信が途切れずに連続して行われる確率。航空機の進入着陸においては,高カテゴリ着陸ではDHより低い地点で誘導信号が途絶えた場合,航空機を滑走路までに誘導ができなくなるために,安全性に直接関わる要件である。
一般的には,測位システムの異常を検出する能力(インテグリティ)が上がったとしても,実際に異常が生じたり,異常でもないにもかかわらず異常を知らせる警報(誤警報)が出たりすることが頻繁に起こるならば,そのシステムは実用に堪えないものとなる。正誤にかかわらず警報が出ない,つまり,システムの異常自体が起きず,誤警報を含み異常検出の警報が発生しない確率がコンティニュイティであり,安全性の指標のひとつである。
コンフリクト (Conflict)
航行中の航空機同士が接近し,所定の管制間隔を満足できない状態。

準天頂衛星システム (Quasi-Zenith Satellite System: QZSS)
日本のほぼ真上に位置する静止衛星,というコンセプトを実現するために複数の人工衛星を用いるシステム。通称「みちびき」
2018年11月1日から4基体制でサービスを開始した。
静止衛星の欠点として,原理上,赤道上空にしか配置できないため,高緯度の地域ほど地上から衛星を見るときの仰角が低くなり,山や建物に遮られて衛星との通信が不可能となるということがある。日本上空にほぼ静止している人工衛星があれば,地上ではアンテナを真上に向けるだけで通信が可能となるため,より多くの場所で静止衛星の機能を活用することができると期待される。準天頂衛星システムは,地上から見ると8の字型を描く軌道(24時間で地球を1周し,そのうち8時間ほど日本の上空を通る。高度は静止衛星と同じ)の3基の衛星が交代で日本の上空を通ることでこの目的を達成する。
官民の連携で整備が進められており,国家機関では内閣府,総務省,文部科学省,経済産業省,国土交通省が協同で担当している。
測位および航法の分野では,GNSSにおける補強システムなどのための通信衛星としての用途のほか,測位衛星の代替手段として静止衛星を用いることも検討されており,準天頂衛星は静止衛星からの信号が届かない場所(山間部やビルが密集している場所など)での測位方法としての活用が期待されている。
セクタ (Sector)
航空管制の業務を分担するために分割された空域の最小単位。
航空交通管制(ATC)は監視能力や管制の処理能力の制約からセクタごとに独立して行われている。航空機の増加,運航頻度の増大に伴い,今後,羽田・成田などの大空港を抱えるセクタの慢性的な混雑が予想されるため,空域の再編,可変的なセクタ設定による効率的な空域管理などに大きな期待が寄せられている。
ソフトウェア無線 (Software Defined Radio)
汎用性の高いハードウェア(無線用電子回路)を用いて,制御ソフトウェアの書換えにより多種多様な無線通信方式に対応する技術。

地上喚起Comm-B (Ground-Initiated Comm-B)
略称GICB。
SSRモードSの通信プロトコルの一種。地上からの質問信号に応じてただちに機上データをダウンリンクする方式。リアルタイムに情報をダウンリンクできるため,例えば速度監視能力の向上に役立てることができる。
追尾 (Tracking)
航空機監視において,航空機の観測位置をもとにターゲットの速度やその後の予測位置等を推定し,監視データの平滑や補完,次の観測での利用を行う技術のこと。代表的な例としてα-βフィルタ追尾,カルマンフィルタ追尾等がある。
電離圏シンチレーション (Ionospheric Scintillation)
電離圏での電子密度の不規則な構造により,通過する電波の振幅や位相が急激に変動する現象。
電離圏遅延 (Ionosphere Delay)
GPS衛星からの信号が電離圏を通る際に生じる遅延。GPS信号の最大の誤差要因となる。電離圏は時々刻々と状態が変化するため,誤差の補正のためには電離圏の状態のリアルタイム観測が不可欠である。
日本は磁気赤道に近く,世界的な平均に比べて電離圏変動が大きく欧米とは電離圏遅延の振る舞いが異なるため,日本に適した対策が課題となっている。
電離圏擾乱(じょうらん) (Ionospheric Disturbance)
電離圏の状態が突発的原因により,時間的・空間的に通常とは異なる急激な変動を示すこと。
トラジェクトリ (Trajectory)
航空機の軌道のこと。
軌道管理,軌道ベース運用等が将来の航空交通管理運用として注目されている。
軌道管理(TM:Trajectory Management)
空域計画と交通流管理を満足させながら,交通流全体の中で各軌道を効率的にする軌道の調整機能
軌道ベース運用(TBO:Trajectory-Based Operations)
全ての航空機の運航の計画と実行の基盤として4次元軌道(4DT:航空機の飛行中と地上走行中の緯度,経度,時刻で表される一連の位置情報のこと。許容誤差範囲も含む)を利用する運用方式。

フェージング (Fading)
電波の受信点においてその受信レベルが時間とともに変動する現象。
プラズマバブル (Plasma Bubble)
磁気赤道に近い地域に特有な電離圏の不規則構造のひとつ。電離圏下部にある電子密度の低い領域が泡状に電離圏上部へ急速に上昇する現象。電離圏遅延量の急激な空間変化と信号強度の急激な変動(シンチレーション)を伴い,GNSSを用いた測位においては深刻な擾乱となる。
保護レベルと警報限界 (Protection Level)
保護レベルはインテグリティを確保するために用いられる,測位誤差の信頼性根拠となる指標。具体的には,機上受信機で下賜される衛星装置と各衛星の距離報告の誤差から見積もられた測位誤差の最大値に近い6σ程の値。
保護レベルが警報限界を超えた場合は航法システムが警報(アラート)を出して利用不可となるため,保護レベルの低減はアベイラビリティの向上につながる。

マックナンバーテクニック (Mach Number Technique)
29,000フィート以上の高高度において,同一高度を飛行する航空機間の縦間隔を短縮・維持するため,航空機にマック(マッハ)ナンバーを指定して速度調整をする管制手法のこと。
マルチラテレーション (Multilateration)
航空機に搭載されたトランスポンダから送信されるスキッタやSSR応答信号を3カ所以上の受信局で受信し,局間の受信時刻差から航空機の位置を測定する監視システム。
マルチラテレーションでは,受信局間の受信時刻差を各受信局と航空機との距離差に変換して,距離差が一定である条件からなる双曲線同士の交点を求めることで航空機の位置を算出する。
マルチラテレーションの特徴としては,悪天候でも性能が劣化しないこと,測位に用いるSSR応答信号などに含まれている情報を用いて航空機の識別情報(コールサイン)を表示する機能を付加できることが挙げられ,従来のASDE(空港面探知レーダ)で指摘されている問題点が改善できる。また,建造物等による遮蔽の影響でASDEでは監視できない領域(ブラインドエリア)に対しても,受信局の配置を対応させることにより監視できることから空港面監視センサとしての活用が期待され,国内主要空港にて順次運用が開始されている。 従来のマルチラテレーションは主に空港地上面を監視対象としていたが,航空路を飛行中の航空機も監視対象とする広域マルチラテレーションの整備も進んでいる。
マルチパス (Multipath)
多重経路伝搬。
電波を用いた計測の際に,計測器で観測される電波は測定対象からまっすぐに届いたものだけではなく,山や建物など,計測環境に存在するさまざまな構造物によって反射して届いたものも含まれる。これによって測定信号が干渉を受けることにより生じる計測誤差をマルチパス誤差という。
GPSを用いた測位では地面・海面によるマルチパスのほか航空機の機体自体によるマルチパスが問題である,マルチラテレーションでは地面や建物によるマルチパスが問題である。
メタリング (Metering)
メタリングは,主に混雑空港の到着機を対象とし,メタリングFIXとよばれる特定の地点における通過時刻を指定することにより,航空機の順序付けや間隔設定を行う機能である。軌道ベース運用(TBO)に繋がる,時間管理運用を構成する機能の一つとして検討が進められている。
メタリングには,メタリングFIXを固定した「固定メタリング」と,天候や交通状況に応じて任意の地点で間隔設定を行う「動的メタリング」がある。メタリングは,メタリングFIX通過のある程度前の段階から交通流を組み立て,時刻の指定により柔軟に間隔を設定することにより,戦略的に航空交通流を管理し,空港容量・空域容量の最大限の活用を図ることを目的としている。

レジリエンス工学 (Resilience Engineering)
レジリエンス工学は,2004年頃から欧米で提唱されている新しい安全学。従来の安全学は,安全達成の方法論として「不安全要素を取り除くこと」を重視していたが,レジリエンス工学では「変化の中で次々と新たに生じる安全上のリスクを事前に予測・検出し,対処する能力」の実現を目指している。変化の中で,安全性や生産性といった互いに矛盾する目標間のバランスを適宜調整しながら,業務を成功裏に継続する能力を「レジリエンス」と言う。

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